【技術解説】SSDのTRIM機能により削除データが復旧できない理由

SSDはHDDとは異なる内部構造と制御方式を持っており、特に「TRIM(トリム)」と呼ばれる機能が有効になっている場合、削除されたデータはほぼ完全に復旧不可能となります。本記事では、TRIMの仕組みと、それによってデータが復旧できなくなる技術的な背景を専門的に解説します。


1. TRIMとは何か?

SSDでは、NANDフラッシュメモリの特性上、データの上書きが直接できません。まず古いデータを削除(厳密には消去)し、その後に新しいデータを書き込む必要があります。この動作には時間がかかるため、パフォーマンスを維持するためにOSとSSDが協調して「不要なブロック」を事前に教える仕組みがTRIMです。

ファイルを削除すると、OSは「この領域は使われていない」とSSDに通知し、SSD側はその情報を使って該当ブロックを将来的に完全消去可能な領域として処理します。


2. なぜTRIMで復旧できなくなるのか?

論理マッピングの解除

SSDは「FTL(Flash Translation Layer)」という仕組みで、物理メモリとOSの論理アドレスの対応関係を管理しています。TRIMが発行されると、その対応関係は解除され、以後はOSからその領域にアクセスしても**「空の領域」として扱われる**ようになります。

データ読み取り時のゼロ応答

TRIM済みの領域にアクセスした場合、SSDはゼロや固定パターンのデータを返す仕様となっているため、削除前の実データには二度とアクセスできません

物理的なフラッシュ消去

多くのSSDでは、TRIMによって無効とされた領域を、内部処理(ガベージコレクション)で実際に物理的に消去(ブロック消去)します。これは時間差で行われますが、一度消去されると物理的にも復元不可能です。


3. 復旧業者の実態と技術者の声

多数の海外フォーラムや専門家の発言によると、以下の点が共通して述べられています。

  • TRIMが発行されたSSDからの復旧はソフトウェア的にもハードウェア的にも不可能である。
  • 高度なリカバリツール(チップリーダーやファームウェア制御ツールなど)を使用しても、TRIM済みの領域から有効なデータを読み出すことはできない
  • 「TRIMが有効だったSSDからのファイル削除は、もはやデータ消去と同義」である。

4. 例外・注意点(知っておくべきケース)

● TRIMが発行されないケース

  • 一部のUSB接続アダプタや古いSATAブリッジはTRIMコマンドを通さないことがあります。
  • exFATやFAT32のようなファイルシステムでは、OSがTRIMを発行しないことも。

● 発行のタイミング

  • Linuxでは fstrim コマンドを使って定期的にまとめてTRIMを発行するケースがあり、削除直後にTRIMがまだ発行されていない可能性もあります。
  • WindowsやmacOSでは多くの場合即時TRIMが標準です。

● ごく短時間なら物理的にデータが残っていることも

一部の低価格SSDや旧世代品では、TRIM発行から物理消去までに時間がかかることがあります。ただし、この猶予は非常に短く不確実で、一般ユーザーが活用するのは現実的ではありません。


5. 結論:SSDの削除データは「戻らない」前提で扱うべき

SSDにおけるデータ削除(=TRIM)は、従来のHDDのような「削除されたけど中身は残っている」という状態ではありません。

一度TRIMが発行されたら、原則として復旧は不可能です。
専門業者でも回復不能であることがほとんどであり、削除操作を「データ消去」と同じように考える必要があります。


6. 対策とアドバイス

  • バックアップは絶対必須。SSD運用においては、常に「突然データが戻らない」前提で設計を。
  • 消してはいけないファイルのあるシステムには、定期的なイメージバックアップやクラウド同期を推奨。
  • 一時的にTRIMを無効化する設定も可能だが、SSDの寿命や性能低下のリスクがあるため、常用は避けるべきです。

編集後記(data-salvage.jpより)

SSDのTRIM機能は、性能と寿命の向上には欠かせない機能ですが、データ復旧の観点では最大の障壁となります。データの安全を守るためには、日頃の運用設計とバックアップ戦略が何より重要です。

data-salvage.jpでは、SSDに関する復旧・調査のご相談も承っています。
削除操作後でも、状況によっては対応可能なケースもございますので、お気軽にご相談ください。